フットプリンツ12

ドラマーの呉在秀(オージェス)という人がいた。いたというのは、彼は40代後半の若さで癌に倒れたからだ。在日韓国の人で出会った頃は倉田在秀と名乗っていた。創氏改名で苗字や名前の読み方を変えていたわけだ。大陸的と言えば月並みな表現だが、リズムがダイナミックで太い。わーっとおおらかにスウィングして、尚かつテンション高く直線的に盛り上がる感じで、良いドラムだなあと思っていたらわりと一緒にやる機会が増えた。ジェスも私のことを気に入って一緒にやろうということになった。それはそれで良かったのだが、彼はいろいろな薬物に手を出していた。そのひょうひょうとした性格からドラッグ常習者にありがちな暗さが無い。そんなことを理由にするつもりもないがつい興味本位から手を出してしまった。一発目でハイになったのでこれはいけるとなってしまったわけだ。後に他の人から聞くとあわなくて気分が悪くなった人もいるのだから何であんなにピッタリハマってしまったのだろうと思う。気づいたら中毒になっていてそれがないと鬱状態になり人前に出るのも演奏するのも怖いという状態になった。そういう状態は斉藤先生に出会って抜け出すまで8年程続いた。一口に薬物中毒と言ってもいろいろなケースがある。なかには何十年も生きて仕事もこなしている人もいるが、やはり大変な重荷を背負って生きることになると思う。そもそも一線で活躍するようなミュージシャンは感性も体力も人一倍あるエネルギッシュな人が多いわけだが、それが酒やドラッグで30代40代で命を落とすこともざらでないのだから恐ろしい話だ。1940年代50年代に活躍したアメリカのビッグなジャズメンはほとんどヘロインに犯されていたが、並外れたパワーの持ち主が30代40代で亡くなっている。それほどやっていない人はわりと長生きしているわけだから、まともにいっていれば長く音楽活動を出来たものを惜しいと思う。