フットプリンツ11

オーディオラボレコードからトリオのリーダーアルバムを出した1978年は自分にとってある頂点というか転機だったような気がする。河上修さんの会社へのプッシュで実現したレコーディングだったので当然ラッキーといえばラッキーなのだが、今振り返るとどこででもあるいは誰とでも表現できるような確信というか自信がまだ足りなかったように思う。メンバーも山木秀夫さんのドラムスと河上修さんのベースという腕達者な人達なので申し分無く、演奏も当時の自分としてはまあまあの出来で、しかもわりとよく売れたらしい。というのも後にこのレコードはCD化されたからだ。ただ同じ年にレコーディングしたストロードロードというレコードは、決して名前があるわけではないが気心しれたメンバーとのトリオでミスもあるものののびのびと演奏している。中央大のジャズ研究会にいて知り合った中山さんと今回の私の29年ぶりのアルバムの録音をして頂いた猪狩さんによって制作された超レアなレコードだ。当時の私の演奏を気に入って良い記録を残したいという気持ちで制作したそうだ。私自身もその時演奏したい曲を何のてらいも無く好きに演奏していただけで、無心でやっていた。そんな一枚とその2年前に吉祥寺サムタイムのハコ(毎日レギュラーで演奏すること)に入るきっかけを作ってくれた渡辺典保さんのアルトサックスと佐々木秀人さんのトランペットをフロントにしたクインテットのレコードが、去年CD化され発売された。なんとビックリしたことにトリオのレコードはレコードマニアのと言われる人達の間で信じられないような高値で取引されていたという。もちろん限定100枚とか50枚とかいう希少盤だからとうこともあるにはあるが。。話のついでに再発に至った裏話を少々。10年程前だったと思う。見ず知らずの石井さんという方から手紙を頂いた。1976年と1978年にリリースされたスマイル盤のレコードを分けて欲しいとのこと。ただ当時私は音楽活動をやめており、活動する予定もないのでレコードを販売する気持ちもなく、丁重にお断りした。ところがその後何度となくお手紙を頂いて、どうしても譲って欲しいとのこと。そんなにおっしゃて頂けるならということで差し上げることになった。そんなことがあってから10年余、その石井さんは脱サラをし、大阪にある澤野工房というジャズレーベルの副社長をされていた。そしていつか私のレコードをCD化して再発しようと考えていたそうだ。マニアの執念である。どうしても欲しいレコードがマーケットで手に入らないと、海外のプレーヤー宅に手紙を書いてまでして手に入れるとのこと。後日再会したら、あの時(レコードを差し上げた時)もう弾かないって言ったじゃないですかと笑いながらおっしゃていた。人生どうなるかわからないものである。