『性こそ吾なり 老いてなお色失わず』波多野完治著(光文社)
よく「金と女」という言い方があるが、それは、権力や欲望うごめく、暗いイメージを感じたものだ。ここで言う「女」とは、欲望の対象としての象徴で、長い人間の歴史の中で、性はいつも暗いベールの中に隠されてきた。以前から人間の矛盾の構造の際たるものとして、また、最も本質的なこととして、金と性の問題があると感じてきた。逆に言えば、性や金のことと真正面からむきあっていくことで、わかっていけるのだと思う。空海等、偉大な先哲達もずっと探求し続けてある境地に達したのだ と思うが、特に性はいつも闇に閉じ込められている。誰もが日常的に感じ、行動していることなのにまともに語れないタブーな世界。考えてみれば不思議なことに、本来最も大切なことが最も隠されているという矛盾そのものと言うか…。男女の関係が人間の文明、文化、思想、生活、仕事、全てに反映しているし、不毛な男女関係が次世代の抑圧を作り、連綿と受け継がれていくということもある。人の因って立つところ、運命的なことを作っているのが、男女の関係がどうであったか(子供でであれば父母の関係)によって決まっていくように思える。本書の「性欲の支配下にある現代文明」という項でも述べられているが、性欲とは生命力、エネルギーであると思う。一般的には老人になったら、ただ、じみにして死を待てば良いとする現代社会は、まちがいだらけの性概念に支配されている。年取って、性のことに興味持ったらはずかしいみたいな偏見から脱出し、正直に性に向き合うというか素直になることだ。更に、男中心の男根中心説からの脱却。射精をもって完了とする目的意識と結びついた性意識が、女性、子供、老人を差別してしまうような不幸な社会を作ってしまうのだと言うこと、同感です。性が豊かになったら、人間は今まで経験したことのない、喜びの世界を生きていけるでしょう。